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内分泌の病気

ひまん/せっしょくちょうせつ
神経性食思不振症
神経性食思不振症とは

神経性食思不振症(anorexia nervosa: AN)は摂食障害の一つです。Anorexia nervosaという病名は精神的な理由により食欲が低下することを意味していますが、患者の多くは食欲不振を悩んでいるというより、痩せるための食行動異常を示します。このため、拒食症という病名の方がわかりやすいかもしれません。病気が進行すると、身体的合併症・心理的な問題が悪化し、社会生活が営めなくなることもあります。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

厚生労働省が病院を対象とし1998年に実施した調査結果によると、年間有病率は人口10万に対し10.1人で、1980年からすると約5倍に増加しています。京都府の学生を対象とした実態調査(疫学調査)では、有病率は、中学生0.5%、高校生0.1%、大学生0.4%でした。最近は成人後や結婚後の発症も増加しており、実際の患者はもっと多いと考えられています。

この病気はどのような人に多いのですか?

好発年齢は10代が多く、90%以上が女性です。最近では神経性食思不振症不全型の男性が増加し、男女比に変化があるとの報告もあります。

この病気の原因はわかっているのですか?

神経性食思不振症は一つの原因で発症する病気ではありません。文化社会的要因、心理的要因、生物学的要因(遺伝素因、脳機能の変化)が複雑に相互に関連しあって発症する多次元モデルが想定されています。飽食の時代の中、相反するやせ願望と肥満蔑視の思想に加え、文化社会的な要因として、女性の社会進出があげられています。心理的要因としては、性格(完璧主義、内向的、強迫的、良心的、自己中心的で未熟など)、自立・自己葛藤、低い自尊心、身体像の障害、不適切な学習、認知の歪み、家族間の問題、偏った養育態度などが考えられます。生物学的要因としては、遺伝素因、視床下部-下垂体系の神経内分泌学的異常、これを調節する神経伝達物質やニューロペプチドの異常、脳の形態的および機能的変化があり、これらは摂食障害の素因、発症および慢性化に関係していると考えられています。

この病気は遺伝するのですか?

神経性食思不振症を発症する特定の遺伝子は見つかっていません。しかし、摂食障害患者の家族内には、やはり摂食障害の有病率が有意に高く、双生児における一致率などから遺伝性を計算すると50~83%は遺伝するという報告があります。また染色体のある領域と神経性食思不振症との間には弱いながらも連鎖が報告され、セロトニン、脳由来神経栄養因子、オピオイドなどの遺伝子との関連も指摘されています。これらの遺伝子は気分障害、不安障害と相関があることが知られています。

この病気ではどのような症状がおきますか?

やせ願望、肥満恐怖、身体像の歪みといった認識のずれがある中で、節食・不食となり、体重減少、低体重をきたします。節食・不食からむちゃ食い(過食)をするようになったり、体重増加を回避するために自己誘発性嘔吐や不適切な下剤の使用、過剰な運動などの代償行為をするようになることもあります。その他、低体重と低栄養による合併症(電解質異常、成長障害、無月経、骨粗鬆症など)、精神科的合併症(気分障害、不安障害など)、社会的な問題(不適応状態、不登校など)が起きることがあります。

この病気にはどのような治療法がありますか?

プライマリケアでのフォローが可能なケースもありますが、中等度以上になれば専門家に相談することが大切です。治療意欲が乏しいのが特徴ですから、まずは治療の動機づけ、主治医との関係性の構築がはかられます。標準体重の65%以下では入院が検討され、55%以下では入院治療の絶対的な適応があります。外来、入院どちらでも少しずつ適切に食事を摂る取り組みを続け、身体的な管理を受けながら、患者が自身の抱える心理的な問題に向き合い、それを解決し、乗り越えていくことが必要になります。しかしながら患者の抱える問題は一人一人異なり、精神的併存症の有無や家族関係などの心理的要因の大きさの違いもあるため、内科医・心療内科医・精神科医・臨床心理士などがそれぞれの立場から一人一人に応じた治療を行うことが重要です。患者自身が治るという意志を持ち、治療に前向きに取り組むことが最も大切であるとも言われています。

この病気はどういう経過をたどるのですか?

自然に治ることはほとんどありません。死亡率は約7%もあり、好発年齢である若い女性の死亡率と比較すると、本疾患の死亡率は非常に高いと言えます。精神科的併存症があると更に高くなってきます。節食・不食から過食と代償行為をするようになると治りにくく慢性化します。従って、できるだけ発症早期に専門家による診察を受けることが重要です。治療が必要と言われたら、患者本人だけでなく家族や周囲の人も一緒に治療に取り組むと経過がよくなると言われています。